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コーディネーターの役割を探る

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課題が山積する今こそ、多様な主体による「協働」を

~コーディネーターの役割を探る~

 

菅善徳氏 × 松塚智宏氏 × 後藤久司氏 × 津村侑弥氏

地域では、様々なセクターがそれぞれの持ち場で活躍しています。ところが、人口減少により社会資源は減少しており、一方で課題は複雑化・多様化しています。様々な課題に対応するために今ある社会資源をより効果的に活用していく目線が求められるようになっていると言えるでしょう。

その一つの手法として、多様な主体による協働があります。協働事業が生まれている現場を見てみると、取り組みの主体の中に「つなぎ役」となっているキーマンがいます。今回は、県南各地で活躍中の4名のキーマンから、地域における「つなぎ役」の役割について聞きたいと思います。
(聞き手:八嶋英樹、編集:奥ちひろ)

 

■活動内容を教えてください■

津村 横手青年会議所(以下、横手JC)は2018年に、よこラボプロジェクト実行委員会(以下、よこラボ)を立ち上げました。団体名は「横(よこ)」のつながりを意識しよう、「協働(コラボ)」しよう、「研究室(ラボラトリー)」のようにみんなで考え話し合って決めていこうという意味で、JCだけでなく市内のNPOや社会福祉協議会、市など多様な立場の方が集まって地域に必要な活動を企画し、実行する場です。立ち上げにあたり、秋田県南NPOセンター(以下、NPOセンター)の支援を受けました。2年目に行った「つむ♪らんど 金沢あそびがっこう」は、各家庭で不要になったおもちゃを一同に集めて遊ぶイベントで、終了後には必要としている個人や保育・学童施設に「紡」ぎました。2日間で約470名が集まり、おもちゃは16施設に寄贈しました。当日に子どもたちの見守りをしてくれる中高生、昔の遊びを教えてくれる高齢者を募集し、世代間交流も生みました。よこラボの設立はゼロからでしたので、市内の様々な団体に直接出向いて趣旨を説明し、参加をお願いするところから始まりました。初めてでしたのですべてが手探りで、NPOセンターに都度相談しながら進めてきました。

 菅  先月、神奈川県横浜市の大学でまちづくりを学んでいる本県出身の学生さんの想いを形にするお手伝いをしました。「自分の得意なスパイスカレー作りをツールに、地域に住む方のまちへの想いを聞く場を作りたい」と話していたので、実現させようと提案したんです。彼女とは湯沢市の事業*1で知り合ったのですが、市の事業担当者や首都圏の事業実施団体も私的に協力してくれ、知恵を出し合って準備しました。市の方は実家が農家で食材の一部を提供してくれ、実施団体は首都圏で取り組みの周知をしてくれました。自分は協力店舗探しや地元での周知を担い、2月22日からの3日間、湯沢市の飲食店で「Rana(ラナ) noの Curry(カレー)」を開店することができました。地域には、自分が主体とならなくてもお金やスキル等、いろいろな形でサポートしてくれる人がいます。そういう人とマッチングすることで、止まっていたことが動き出すこともありますよね。コーディネーターの役割として大事なところだと思います。

後藤 私は、生活保護に至る前の生活困窮者を支援しています(湯沢市からの委託事業)。具体的には、ひきこもりや借金問題、DV等の個別ケースに対応しています。そんな中で2018年に、横手市の株式会社マルシメ(スーパーモールラッキー)からお声がけ頂き、同社がCSRの一環で行っている意見交換会「県南リビングラボ」に参加しました。遠藤社長から「地元が元気にならないと企業も元気にならない」という話があり、みんなで地域課題やその解決策について話し合う中で、社協が悩んでいたひきこもりの方の実情についてお話しました。これを取り上げて頂き、2019年よりマルシメとの共催で「ラッキークエスト」という当事者を対象とした社会参加型訓練を展開しています。「つなぎ役」として動いたこととしては、企画段階から協力してくれそうな支援機関を探し、交渉したことです。その結果、横手社協と羽後社協に参画して頂くことができ、マルシメと湯沢社協のみで行うよりも効果的に取り組むことができています。社協は当事者を把握して支援していますし、湯沢社協では「りらとこ」という居場所サロンを開いていますので、当事者の方に「ラッキークエスト」をご紹介し、参加して頂けるように調整しています。マルシメのCSRの推進は、NPOセンターにも在籍するコーディネーターが担っており、社内と地域のつなぎ役としての役割を果たしてくれていることで実現に至っています。

松塚 05111(まるこがわ)は、秋田銀行が大仙市で開催した事業創造ワークショップの参加者が主体となって、2019年に立ち上げたグループです。メンバーの約半分は起業したい人や新規事業を行いたい人ですが、それを応援したい人も参加しています。私たちは、市内を流れる丸子(まるこ)川がわがかつての流通の要所で、ここを起点にまちが発展したことや、この近隣エリアには現在空き家が多いことに目を付け、これを資源として活用しようと考えました。メンバーそれぞれが単独で起業するのではなく、丸子川から徒歩圏内に集中させて出店することで、相互に協力し合い、エリアとしてまちを楽しくすることをイメージしています。月1回の例会では、メンバー間で事業計画についてプレゼンテーションを行い、相互にフィードバックして応援し合っています。私の役割としては、銀行のワークショップ終了後も参加者が起業に向かえるようにと、この場を設定して応援してきました。また、メンバーの多くは市外出身で、地元との縁が薄い方です。私は大曲出身ですし、丸子川沿いで会社を経営しているので、地域とのつながりがあります。ですので、例えばメンバーが事業を行う際に空き家を使いたいとなれば町内会や市など関係各所につないでいます。

 

■協働事業だからこそ得られた成果はありましたか■

菅 「Rana no Curry」は、地域の方とまちづくりについて意見交換することが趣旨でしたので、人が集まりやすい湯沢駅周辺で開催しました。市の職員や市の事業の実施団体が他県で行われている軒先ビジネス*2の事例を調べてくれ、参考にしながら安全衛生面でのリスク管理や駅前店舗との交渉などを行い、実現にたどり着きました。自団体だけでは適切な場所も提供できませんでしたし、実現までにもっと時間がかかったと思います。協力店舗からは「メディアに取り上げられてお店を知ってもらえたし、新しいお客様と出会えた。こんな店舗の使い方があるんだと気づいた」という感想も頂くことができました。

後藤 私たちも、開始1年目の取り組みながら講演や事例紹介の依頼を複数頂き、福祉関係者以外の方に関心を持ってもらえる機会が増えました。企業がこういうことに取り組むことは全国的にもあまり事例がなく、県南地区でも珍しかったことが大きいと思います。社協だけではこうした動きにはなりづらいと思います。参加者にとっても、今までの相談支援だけでは得られない変化がありました。ラッキークエストで経験を積むことで、参加者が外出時の身だしなみを気にするようになるなど、自らを振り返って気づくことにつながったりしています。こうした気づきが変化となり、就職活動を始めたり仕事に就いた人も少なくありません。支援者にとっても、1対1の相談対応や限られたグループ活動だけでは分からなかった一面に気づくことができ、その後の支援に活かせるようになりました。

津村 今までの横手JCの主な事業は、会員のみで企画し、決まった段階で地域の皆さんに当日のボランティアなどを要請するという関わり方をしてきましたので、どうしても「共感をしてもらう」ということが薄かったと感じています。今回は、JCが参加団体と同じテーブルに着いてプラットホームを設けるところから、一緒に地域課題やビジョンを話し合い、事業を練るプロセスを共にしましたので、共有できたことが多かったです。結果として、主体的に動いてくださる方も多かったように思います。JCとしてもこれまで関わりのなかった団体と知り合うことができましたし、活動分野の多様性によって実施事業に不足している部分を、参加団体のネットワークを通じて詳しい方が補ってくださる等、輪が広がっていったことも成果だと思います。また、企業経営者とつながりたいNPOがあったり、NPOと関わりたいと思いながら不安を持つ企業があったりもしましたので、このつながりをきっかけに、今後の活動や事業にも結び付く可能性があると考えています。「一緒にやろう」という声が参加者間で自然派生的に生まれたことも、多様な団体が集うからこそだと思いました。事業そのものの成果だけでなく、事業が行う過程で生まれることがたくさんあったように思います。

松塚 複数の組織で取り組むからこその広がりがありますよね。05111の場合は、大仙市が移住希望者をご紹介くださるようになりました。移住となると必ず仕事の問題が出てきますので、「05111に行って相談してみたら」と市が勧めてくれてメンバーが増えています。05111に参加するうちに起業の意志が固まったメンバーには、銀行に相談に行くよう勧めます。銀行主催のワークショップから始まったためにパイプができており、05111の中で事業計画を考えた上で相談に行けるのでブラッシュアップが早いという利点があります。銀行はお金だけでなく物件も紹介してくださるので、そういうところも具体的に進みやすくなっていると思います。こうした循環は05111というグループ単独では生むことができないもので、市や銀行との協力関係があるからこそだと思います。

 

■協働するからこその課題や、「つなぎ役」として動くことの難しさはありましたか■

津村 多様な参加者とワークショップ形式でゼロから事業を構築する経験自体が初めてでしたので、本当に手探り。例えるならミステリーツアーでした。参加者との合意を積み上げていく段階では、100%の納得を得ることが難しく、「決定した事業には関心がないから離脱する」という方も。参加団体が特定の活動分野を持ち、地域に対して熱い想いを持っているからこそではありましたが、一方の意見だけを聞いていると収集がつかなくなってしまいます。こうした場合にどのように合理性を担保し、ご納得いただけるように伝えるかも、NPOセンターから教わりました。総意を得ながら1つ1つ進めることを2年やってきたら、「この回の話し合いはエネルギーがいる回だな」ということが分かるようになってきました。

後藤 私はマルシメのみなさんが親切でしたのでそこまで難しさはありませんでしたが、マルシメの従業員全員が事業を理解して、そこに向かっているかというと難しいところがあるのかなと感じました。一つの組織でさえも一丸となることが難しいので、多様な価値観を持つ組織同士が協働するとなると当然、課題が生まれてきますよね。実は来年度、子どもたちに福祉への関心を持ってもらうための事業を県雄勝地域振興局が計画しており、その題材がラッキークエストになる予定です。そうなると関係機関が県や学校にも広がります。打ち合わせの中でそれぞれの組織の時間的制約や事情が垣間見えたり、大人側も「福祉」への認識が様々な中でゴールを決める必要があったりしており、難しさを感じています。

松塚 チームが一丸となれるかどうかがポイントですよね。05111でもメンバーの意識づけには常に気をつけています。想いを維持して自走できる人は良いのですが、そうでなければネガティブな話を始めたりグループを離れる人が出てきたりするのでフォローが必要ですよね。05111では集まったら毎回、グループの目的を確認して共有することから始めています。そのことが大変というわけではありませんが、自分の中で毎回確認しようという意識が必要だし、根気のいることではあります。でも、活動時間が限られていたとしても必ずやるべきことですね。それをしないと、グループは崩れていくのかなと思います。

後藤 行政も社協も、数字が好きですよね。「今回の参加者は何人」で喜んだり、落ち込んだり。でも、本来目指している目的はそこではないということがよくある気がします。

松塚 組織として事業の目的をしっかり定めることのほかに、多様な組織で取り組む場合には、関わっている組織に合わせた「合言葉」を用意することも効果的ですよ。軸となっているのは最初に定めた事業目的ですが、そのまま伝えても他の組織に響くとは限りません。相手の立場に立ったときにこの事業にはどういう意義があるのか考え、分かりやすい「合言葉」として伝えることで、相手が参加しやすくなったりもします。

津村 他の大変さといえば、参加団体への日頃の働きかけでした。お仕事や自分の団体を持っている方が多かったので、参加者の関与のレベルが人によってまちまちだったからです。率先してやってくれるメンバーがいつも同じ人だと、疲弊していきますよね。いかに役割を分散するかも大切だと思いました。また、様々な世代の方を参集したために連絡手段が複数になってしまい、事務手続きが複雑化しました。

松塚 先日、僕は世話人をやめました。一番大変だったのは、月1回の例会の段取りです。回のゴールや議題を決めて、会場を確保して案内を出して、出欠を取る作業はなかなか大変ですよね。当日は進行をして記録を残す必要もあります。世話人を固定すると、最初は主体的だったメンバーもその人に頼るようになってしまうため、世話人の役割を参加者間で順番に行うことに決めました。こういった役割分担ができれば、コーディネーターはコーディネーションに集中できます。役割が偏らないようにすることも大事だなと思いました。とはいえ、一般的には自分自身にやりたいことがあるから活動に参加するわけで、組織の維持やメンバー間の調和を取ろうという世話人やコーディネーターの視点で参加しているわけではないですよね。そんな中で、いつまで自分が担うのかという悩みがあります。

菅 自分としては、コーディネーターがいるからこそ生まれている成果にもっと着目してもらいたいです。コーディネーターは誰かのやりたいことを応援し、困り事の解決を後押しする、地域にとって重要な役割ですよね。しかし、そこで得られる収益があるわけではなく、持ち出しになります。「つなぐ」ことで相談者からお金をもらうことは難しいケースがほとんどです。行政には、コーディネーターが地域で果たしている役割に意義を感じてもらい、予算をつけて頂きたいです。そうすると、もっと動けるのになと悔しい部分があります。というのも、湯沢市のまちづくりコーディネーターを拝命したことで頼られることが増えてきたのですが、今以上にその時間が増えると本業が回らなくなってしまうのです。そのためにも、まずはコーディネーターとしての実績を作って予算をつけてもらえるように提言していきたいと考えています。

 

■多様な主体が協働して取り組むことのメリットと、コツはありますか。■

津村 多様性こそがメリットになると思います。いろいろな意見から生まれる新しいアイデアに発展していくためです。参加者と目的を共有し、ぶれないようにそこに着地することがコツです。一番大事なのは、熱意を伝えることです。自分も汗をかいて伝えないと、なかなか人を動かすのは難しいと感じました。

菅 同じ時間を過ごし、想いの共有することによって仲間意識ができるという良さもあります。注意したいことは、役割分担を明確にしておくことです。その際、自分の立ち位置も明確にし、誤解のないようにはっきり伝えることも大事です。そこが不明確になると、トラブルが起きがちです。

後藤 実は、社協は企業とのタイアップが苦手です。というのは、相手のことを知らないからです。保守的な組織だと、関わりやすいところとくっつきやすいですよね。でも、地域課題の解決を目指すのであれば、住民にとって一番身近な生活の場である企業との協働は欠かせないような気がします。今回、私たちもマルシメと協働させて頂きましたが、課題解決の手法を考えるにあたって福祉の領域以外にも視野を広げる機会になりました。初めての試みは失敗もありますが成長にもつながるので、それを信じてやり抜くことが大事だと思います。特に福祉のように、活動の成果を分かりやすく示すことが難しい分野の活動には、異なる分野の方と連携することで、それを起点に広がっていくというメリットもあると思います。湯沢社協としても、湯沢市内で協働できる企業を開拓していきたいです。

松塚 NPOだけでなく中小企業もそうですが、今、必要な資源を自分のところだけですべて賄うことは難しくなっています。何をするにしても協働を前提にしたほうが良いと感じます。そのほうが組織も活性化するし、事業に発展性も見えてきます。他と組むメリットのほうが大きいのではないでしょうか。成功のコツは、関係機関やメンバーにとっての協働のメリットや幸せな状態について、あらかじめ想いを聞き、それをつなぐことだと思います。コーディネーターとしての覚悟を持つことは必須です。半端にやっても人は着いてこないので、最後は根気や熱意が必要だと思います。

-ありがとうございました。


*1 湯沢市「地方と都市の共創型リビングラボプロジェクト」湯沢市と横浜市が抱える地域課題を共有し、双方の地域課題を双方の地域住民や企業等によって解決しあう仕組みを構築するとともに、参加した都市部の住民の湯沢市への関心を醸成することをねらいとしたもの。令和2年度総務省「関係人口創出・拡大事業」モデル事業に採択された。
*2 軒先ビジネス 空きスペースを貸したい方と、使いたい方をつなぎ、有効活用すること。シェアリングエコノミーの一つ。

 

 

課題が山積する今こそ、多様な主体による「協働」を


~コーディネーターの役割を探る~


菅善徳氏 × 松塚智宏氏 × 後藤久司氏 × 津村侑弥


地域では、様々なセクターがそれぞれの持ち場で活躍しています。ところが、人口減少により社会資源は減少しており、一方で課題は複雑化・多様化しています。様々な課題に対応するために今ある社会資源をより効果的に活用していく目線が求められるようになっていると言えるでしょう。


その一つの手法として、多様な主体による協働があります。協働事業が生まれている現場を見てみると、取り組みの主体の中に「つなぎ役」となっているキーマンがいます。今回は、県南各地で活躍中の4名のキーマンから、地域における「つなぎ役」の役割について聞きたいと思います。
(聞き手:八嶋英樹、編集:奥ちひろ)



■活動内容を教えてください■


津村 横手青年会議所(以下、横手JC)2018年に、よこラボプロジェクト実行委員会(以下、よこラボ)を立ち上げました。団体名は「よこ」のつながりを意識しよう、「協働コラボ」しよう、「研究室ラボラトリー」のようにみんなで考え話し合って決めていこうという意味で、JCだけでなく市内のNPOや社会福祉協議会、市など多様な立場の方が集まって地域に必要な活動を企画し、実行する場です。立ち上げにあたり、秋田県南NPOセンター(以下、NPOセンター)の支援を受けました。2年目に行った「つむ♪らんど 金沢あそびがっこう」は、各家庭で不要になったおもちゃを一同に集めて遊ぶイベントで、終了後には必要としている個人や保育・学童施設に「紡」ぎました。2日間で約470名が集まり、おもちゃは16施設に寄贈しました。当日に子どもたちの見守りをしてくれる中高生、昔の遊びを教えてくれる高齢者を募集し、世代間交流も生みました。よこラボの設立はゼロからでしたので、市内の様々な団体に直接出向いて趣旨を説明し、参加をお願いするところから始まりました。初めてでしたのですべてが手探りで、NPOセンターに都度相談しながら進めてきました。

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先月、神奈川県横浜市の大学でまちづくりを学んでいる本県出身の学生さんの想いを形にするお手伝いをしました。「自分の得意なスパイスカレー作りをツールに、地域に住む方のまちへの想いを聞く場を作りたい」と話していたので、実現させようと提案したんです。彼女とは湯沢市の事業*1で知り合ったのですが、市の事業担当者や首都圏の事業実施団体も私的に協力してくれ、知恵を出し合って準備しました。市の方は実家が農家で食材の一部を提供してくれ、実施団体は首都圏で取り組みの周知をしてくれました。自分は協力店舗探しや地元での周知を担い、222日からの3日間、湯沢市の飲食店で「Ranaラナ noの Curryカレー」を開店することができました。地域には、自分が主体とならなくてもお金やスキル等、いろいろな形でサポートしてくれる人がいます。そういう人とマッチングすることで、止まっていたことが動き出すこともありますよね。コーディネーターの役割として大事なところだと思います。




後藤 私は、生活保護に至る前の生活困窮者を支援しています(湯沢市からの委託事業)。具体的には、ひきこもりや借金問題、DV等の個別ケースに対応しています。そんな中で2018年に、横手市の株式会社マルシメ(スーパーモールラッキー)からお声がけ頂き、同社がCSRの一環で行っている意見交換会「県南リビングラボ」に参加しました。遠藤社長から「地元が元気にならないと企業も元気にならない」という話があり、みんなで地域課題やその解決策について話し合う中で、社協が悩んでいたひきこもりの方の実情についてお話しました。これを取り上げて頂き、2019年よりマルシメとの共催で「ラッキークエスト」という当事者を対象とした社会参加型訓練を展開しています。「つなぎ役」として動いたこととしては、企画段階から協力してくれそうな支援機関を探し、交渉したことです。その結果、横手社協と羽後社協に参画して頂くことができ、マルシメと湯沢社協のみで行うよりも効果的に取り組むことができています。社協は当事者を把握して支援していますし、湯沢社協では「りらとこ」という居場所サロンを開いていますので、当事者の方に「ラッキークエスト」をご紹介し、参加して頂けるように調整しています。マルシメのCSRの推進は、NPOセンターにも在籍するコーディネーターが担っており、社内と地域のつなぎ役としての役割を果たしてくれていることで実現に至っています。



松塚 05111まるこがわは、秋田銀行が大仙市で開催した事業創造ワークショップの参加者が主体となって、2019年に立ち上げたグループです。メンバーの約半分は起業したい人や新規事業を行いたい人ですが、それを応援したい人も参加しています。私たちは、市内を流れる丸子まるこがわがかつての流通の要所で、ここを起点にまちが発展したことや、この近隣エリアには現在空き家が多いことに目を付け、これを資源として活用しようと考えました。メンバーそれぞれが単独で起業するのではなく、丸子川から徒歩圏内に集中させて出店することで、相互に協力し合い、エリアとしてまちを楽しくすることをイメージしています。月1回の例会では、メンバー間で事業計画についてプレゼンテーションを行い、相互にフィードバックして応援し合っています。私の役割としては、銀行のワークショップ終了後も参加者が起業に向かえるようにと、この場を設定して応援してきました。また、メンバーの多くは市外出身で、地元との縁が薄い方です。私は大曲出身ですし、丸子川沿いで会社を経営しているので、地域とのつながりがあります。ですので、例えばメンバーが事業を行う際に空き家を使いたいとなれば町内会や市など関係各所につないでいます。


■協働事業だからこそ得られた成果はありましたか■


Rana no Curry」は、地域の方とまちづくりについて意見交換することが趣旨でしたので、人が集まりやすい湯沢駅周辺で開催しました。市の職員や市の事業の実施団体が他県で行われている軒先ビジネス*2の事例を調べてくれ、参考にしながら安全衛生面でのリスク管理や駅前店舗との交渉などを行い、実現にたどり着きました。自団体だけでは適切な場所も提供できませんでしたし、実現までにもっと時間がかかったと思います。協力店舗からは「メディアに取り上げられてお店を知ってもらえたし、新しいお客様と出会えた。こんな店舗の使い方があるんだと気づいた」という感想も頂くことができました。

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後藤 私たちも、開始1年目の取り組みながら講演や事例紹介の依頼を複数頂き、福祉関係者以外の方に関心を持ってもらえる機会が増えました。企業がこういうことに取り組むことは全国的にもあまり事例がなく、県南地区でも珍しかったことが大きいと思います。社協だけではこうした動きにはなりづらいと思います。参加者にとっても、今までの相談支援だけでは得られない変化がありました。ラッキークエストで経験を積むことで、参加者が外出時の身だしなみを気にするようになるなど、自らを振り返って気づくことにつながったりしています。こうした気づきが変化となり、就職活動を始めたり仕事に就いた人も少なくありません。支援者にとっても、11の相談対応や限られたグループ活動だけでは分からなかった一面に気づくことができ、その後の支援に活かせるようになりました。


津村 今までの横手JCの主な事業は、会員のみで企画し、決まった段階で地域の皆さんに当日のボランティアなどを要請するという関わり方をしてきましたので、どうしても「共感をしてもらう」ということが薄かったと感じています。今回は、JCが参加団体と同じテーブルに着いてプラットホームを設けるところから、一緒に地域課題やビジョンを話し合い、事業を練るプロセスを共にしましたので、共有できたことが多かったです。結果として、主体的に動いてくださる方も多かったように思います。JCとしてもこれまで関わりのなかった団体と知り合うことができましたし、活動分野の多様性によって実施事業に不足している部分を、参加団体のネットワークを通じて詳しい方が補ってくださる等、輪が広がっていったことも成果だと思います。また、企業経営者とつながりたいNPOがあったり、NPOと関わりたいと思いながら不安を持つ企業があったりもしましたので、このつながりをきっかけに、今後の活動や事業にも結び付く可能性があると考えています。「一緒にやろう」という声が参加者間で自然派生的に生まれたことも、多様な団体が集うからこそだと思いました。事業そのものの成果だけでなく、事業が行う過程で生まれることがたくさんあったように思います。


松塚 複数の組織で取り組むからこその広がりがありますよね。05111の場合は、大仙市が移住希望者をご紹介くださるようになりました。移住となると必ず仕事の問題が出てきますので、「05111に行って相談してみたら」と市が勧めてくれてメンバーが増えています。05111に参加するうちに起業の意志が固まったメンバーには、銀行に相談に行くよう勧めます。銀行主催のワークショップから始まったためにパイプができており、05111の中で事業計画を考えた上で相談に行けるのでブラッシュアップが早いという利点があります。銀行はお金だけでなく物件も紹介してくださるので、そういうところも具体的に進みやすくなっていると思います。こうした循環は05111というグループ単独では生むことができないもので、市や銀行との協力関係があるからこそだと思います。



■協働するからこその課題や、「つなぎ役」として動くことの難しさはありましたか■


津村 多様な参加者とワークショップ形式でゼロから事業を構築する経験自体が初めてでしたので、本当に手探り。例えるならミステリーツアーでした。参加者との合意を積み上げていく段階では、100%の納得を得ることが難しく、「決定した事業には関心がないから離脱する」という方も。参加団体が特定の活動分野を持ち、地域に対して熱い想いを持っているからこそではありましたが、一方の意見だけを聞いていると収集がつかなくなってしまいます。こうした場合にどのように合理性を担保し、ご納得いただけるように伝えるかも、NPOセンターから教わりました。総意を得ながら11つ進めることを2年やってきたら、「この回の話し合いはエネルギーがいる回だな」ということが分かるようになってきました。



後藤 私はマルシメのみなさんが親切でしたのでそこまで難しさはありませんでしたが、マルシメの従業員全員が事業を理解して、そこに向かっているかというと難しいところがあるのかなと感じました。一つの組織でさえも一丸となることが難しいので、多様な価値観を持つ組織同士が協働するとなると当然、課題が生まれてきますよね。実は来年度、子どもたちに福祉への関心を持ってもらうための事業を県雄勝地域振興局が計画しており、その題材がラッキークエストになる予定です。そうなると関係機関が県や学校にも広がります。打ち合わせの中でそれぞれの組織の時間的制約や事情が垣間見えたり、大人側も「福祉」への認識が様々な中でゴールを決める必要があったりしており、難しさを感じています。

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松塚 チームが一丸となれるかどうかがポイントですよね。05111でもメンバーの意識づけには常に気をつけています。想いを維持して自走できる人は良いのですが、そうでなければネガティブな話を始めたりグループを離れる人が出てきたりするのでフォローが必要ですよね。05111では集まったら毎回、グループの目的を確認して共有することから始めています。そのことが大変というわけではありませんが、自分の中で毎回確認しようという意識が必要だし、根気のいることではあります。でも、活動時間が限られていたとしても必ずやるべきことですね。それをしないと、グループは崩れていくのかなと思います。


後藤 行政も社協も、数字が好きですよね。「今回の参加者は何人」で喜んだり、落ち込んだり。でも、本来目指している目的はそこではないということがよくある気がします。


松塚 組織として事業の目的をしっかり定めることのほかに、多様な組織で取り組む場合には、関わっている組織に合わせた「合言葉」を用意することも効果的ですよ。軸となっているのは最初に定めた事業目的ですが、そのまま伝えても他の組織に響くとは限りません。相手の立場に立ったときにこの事業にはどういう意義があるのか考え、分かりやすい「合言葉」として伝えることで、相手が参加しやすくなったりもします。


津村 他の大変さといえば、参加団体への日頃の働きかけでした。お仕事や自分の団体を持っている方が多かったので、参加者の関与のレベルが人によってまちまちだったからです。率先してやってくれるメンバーがいつも同じ人だと、疲弊していきますよね。いかに役割を分散するかも大切だと思いました。また、様々な世代の方を参集したために連絡手段が複数になってしまい、事務手続きが複雑化しました。


松塚 先日、僕は世話人をやめました。一番大変だったのは、月1回の例会の段取りです。回のゴールや議題を決めて、会場を確保して案内を出して、出欠を取る作業はなかなか大変ですよね。当日は進行をして記録を残す必要もあります。世話人を固定すると、最初は主体的だったメンバーもその人に頼るようになってしまうため、世話人の役割を参加者間で順番に行うことに決めました。こういった役割分担ができれば、コーディネーターはコーディネーションに集中できます。役割が偏らないようにすることも大事だなと思いました。とはいえ、一般的には自分自身にやりたいことがあるから活動に参加するわけで、組織の維持やメンバー間の調和を取ろうという世話人やコーディネーターの視点で参加しているわけではないですよね。そんな中で、いつまで自分が担うのかという悩みがあります。

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自分としては、コーディネーターがいるからこそ生まれている成果にもっと着目してもらいたいです。コーディネーターは誰かのやりたいことを応援し、困り事の解決を後押しする、地域にとって重要な役割ですよね。しかし、そこで得られる収益があるわけではなく、持ち出しになります。「つなぐ」ことで相談者からお金をもらうことは難しいケースがほとんどです。行政には、コーディネーターが地域で果たしている役割に意義を感じてもらい、予算をつけて頂きたいです。そうすると、もっと動けるのになと悔しい部分があります。というのも、湯沢市のまちづくりコーディネーターを拝命したことで頼られることが増えてきたのですが、今以上にその時間が増えると本業が回らなくなってしまうのです。そのためにも、まずはコーディネーターとしての実績を作って予算をつけてもらえるように提言していきたいと考えています。


■多様な主体が協働して取り組むことのメリットと、コツはありますか。■


津村 多様性こそがメリットになると思います。いろいろな意見から生まれる新しいアイデアに発展していくためです。参加者と目的を共有し、ぶれないようにそこに着地することがコツです。一番大事なのは、熱意を伝えることです。自分も汗をかいて伝えないと、なかなか人を動かすのは難しいと感じました。


同じ時間を過ごし、想いの共有することによって仲間意識ができるという良さもあります。注意したいことは、役割分担を明確にしておくことです。その際、自分の立ち位置も明確にし、誤解のないようにはっきり伝えることも大事です。そこが不明確になると、トラブルが起きがちです。


後藤 実は、社協は企業とのタイアップが苦手です。というのは、相手のことを知らないからです。保守的な組織だと、関わりやすいところとくっつきやすいですよね。でも、地域課題の解決を目指すのであれば、住民にとって一番身近な生活の場である企業との協働は欠かせないような気がします。今回、私たちもマルシメと協働させて頂きましたが、課題解決の手法を考えるにあたって福祉の領域以外にも視野を広げる機会になりました。初めての試みは失敗もありますが成長にもつながるので、それを信じてやり抜くことが大事だと思います。特に福祉のように、活動の成果を分かりやすく示すことが難しい分野の活動には、異なる分野の方と連携することで、それを起点に広がっていくというメリットもあると思います。湯沢社協としても、湯沢市内で協働できる企業を開拓していきたいです。


松塚 NPOだけでなく中小企業もそうですが、今、必要な資源を自分のところだけですべて賄うことは難しくなっています。何をするにしても協働を前提にしたほうが良いと感じます。そのほうが組織も活性化するし、事業に発展性も見えてきます。他と組むメリットのほうが大きいのではないでしょうか。成功のコツは、関係機関やメンバーにとっての協働のメリットや幸せな状態について、あらかじめ想いを聞き、それをつなぐことだと思います。コーディネーターとしての覚悟を持つことは必須です。半端にやっても人は着いてこないので、最後は根気や熱意が必要だと思います。



-ありがとうございました。


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*1 湯沢市「地方と都市の共創型リビングラボプロジェクト」
湯沢市と横浜市が抱える地域課題を共有し、双方の地域課題を双方の地域住民や企業等によって解決しあう仕組みを構築するとともに、参加した都市部の住民の湯沢市への関心を醸成することをねらいとしたもの。令和2年度総務省「関係人口創出・拡大事業」モデル事業に採択された。

*2 軒先ビジネス 空きスペースを貸したい方と、使いたい方をつなぎ、有効活用すること。シェアリングエコノミーの1つ。

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